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『フィッシュ オン!』 水彩 カナダの旅 スティールヘッド編 5 [水彩画]

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『フィッシュ オン!』 水彩 P4 カナダの旅 スティールヘッド編 5

遂にスティールヘッドがヒット!水中を観察していたゴードさんが魚影を確認、相手はビッグだ!綱引きのような根比べが始まった。キスピオックのプロは、冷静に状況とランディングポイントを見極めつつ、森の住人にも注意を怠らない。


3日目

この朝は更に冷え込んだ。ねぼけまなこでレストランに行き、カリカリベーコン、ポテト、ホットケーキを注文する。冷たい牛乳を飲みながら外を眺める。4層ガラスで出来た窓の中央に置かれた温度計は3℃を示し、今日も水温低下と渇水が進み厳しい釣りが予想される・・・。

今日は随分時間をかけて上流に向かった。見晴らしのよい橋の手前で車を止め、ゴードさんが遥か彼方の山を指差し「今年の初冠雪だ」と静かに言った。昨夜の冷え込みで2000mより上では雪が降ったようだ。
「さて諸君、この橋の下の瀬の中に白い石が見えるが判るだろうか?」ゴードさんは流れの中の石を指差す。僕らがイエスと答えると、「では上流から釣り下ってきて、パープルマラブーをできるだけゆっくりターンさせながら、あの白い石にタッチさせてみてくれ」・・・まずは昨日の復習テストという訳か・・・望むところ。藤野さんと僕は川に降りてタイプⅡが巻いてあるリールを竿にセットし紫マラブーを結び、交代でこの課題に挑戦した。橋の上から「角度がきつい、もっと上流から送り込め」とか「まだ1m送り込みが足りない」「コースはいいけど毛鉤が浮いているじゃないか、底石を触る感触はあるか?」ばんばん指示が飛ぶ。何回かトライしているうちに、白い石に毛鉤をタッチさせることが出来た。「いいじゃないか、よし釣りに出かけよう!」やっとゴードさんのゴーフィッシングが出た。

薄氷の張った川岸を歩いて最初のポイントに向かうと、いたるところにサケの死骸が横たわっている。ゴードさんが一際大きな骨を指差し「キング」と呟いた。最初のポイントは流れが緩い、こんなところにスティールヘッドが居るのかな?と思いながら何回かキャストすると、鈍い感触があった、すかさず合わせを入れたが針は掛からず水中で銀色の魚体がギラリと反転した。後ろで見ていたゴードさんが「コーホー」と呟いた。・・・しまった!コーホーと言えば日本のサクラマスみたいなものである、長年追いかけて来た魚が釣れるチャンスだったのに・・・。

それから午前中いっぱい、あらゆるポイントを釣ってみたがアタリは無く、それらしい魚影も見ない・・・これで全日程5日間の半分が過ぎた・・・まずいな。

ゴードさんの昼食の準備を眺めながら、僕は川原に座りこみ竿の長さだけ出した仕掛けをペッタン、ペッタンと、餅つきのように目の前の浅くて白泡の立つ早い瀬に打ち込んでいた。泡の一点目がけて毛鉤を勢いよく叩きつけたり、着水寸前で止めてみたり・・・デパートで駄々をこねる子供か?。何十回か繰り返しているうちにグイと魚が喰いついた!うわっ、小さいのに強い!30cmほどのニジマスは元気にジャンプを繰り返し、勢い余って自ら川原に跳ね上がって来た。カットスロートとは引きの強さが全く違うし、模様も違う。この元気印君をゴードさんに見せると、リリースしながらベビースティールだと言う。
半ば暇つぶしの偶然で掛かったベビー君だが、胸の暗雲に一筋の光芒をもたらした事は確かだ。

午後からは早い瀬に的を絞って釣ったが、アタリは無い。
あのベビースティールは、やはりただの偶然だったのか?
16時、今日も後2,3ポイント回って終了だ、またしてもボウズか?じりじりと焦りを感じながらも、目は必死に流れを追いかける。

ヒットは思いがけないポイントでやってきた。

瀬頭に出来た水深がありそうなえぐれに、反転流が巻いていた。
アマゴの類は流芯を好み、こういった反転流をあまり好まない。居るとしてもへそ曲がりなイワナくらいであろうというのが僕の経験上の結論ではあったが、今は僅かな可能性にもすがるしかない。
静かに寄って行き、下流にポトリと紫マラブーを落とした。毛鉤はフワフワと沈みながら反転流に巻き込まれ、瀬頭に向かう筈だ・・・
毛鉤は思った軌道の途中で止まった・・・思ったほど水深が無かったのかな?それとも流木でも沈んでいたのだろうか?
アタリのような感触はまったく無かったが、渾身の力で竿を煽った。半ばやけくそである、へそ曲がりな小イワナが空を切り、すっ飛んで来る予定だったが、非常に重たいものを引っ掛けた感触がズシリと来た・・・
やはり流木にでも引っ掛けたのだろう。そう思いながら覗きこむと、掛かった相手は弾丸のように下流に走った!うわっ!サカナ!全身の毛穴が逆立ち、カッーと体が熱くなるのを覚えながら、反射的に竿を上流側に倒し、スプールにブレーキをかけた。相手は30mほど下流に走ったところでターンし流芯で止まった。ターンの瞬間、虹色の光がはっきりと見えた。間違いなくスティールヘッドだ!
しかし、この強さは何だ!?9番ロッドをグリップの中から曲がる程プレッシャーを与えているのに、時折口に引っかかったゴミを払うがごとく頭を左右に軽く振りながら、流芯を平然と泳いでいる。

「フィッシュ オーン!スティール!」 静かなキスピオックの中で僕は思い切り叫んだ!

駆けつけたゴードさんは慎重に水中を観察し「ビッグ フィッシュ」と唸る。藤野さんも竿の曲がりを見て「うはー、こりゃ凄いわ!今日は僕の釣りはもういいから、絶対コイツを上げようぜ!」と言ってくれた。
ゴードさんも「ゆっくりやろう」と言いながら、ランディングポイントの見極めや熊への注意を怠らない。


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