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『牧場を抜ける』 水彩 カナダの旅 スティールヘッド編 7 [水彩画]

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『牧場を抜ける』 水彩 31cm×17cm カナダの旅 スティールヘッド編 7





スティールヘッドの釣り4日目。

朝レストランに行くと、珍しくマーガレットさんが居ない。ご主人が大あくびをしながら出てきた、手には1リットルくらい入りそうなグラスにトマトジュースのビール割り・・・名前を聞きそびれてしまったのでミスターJと呼んでおこう。「今日はウチの定休日なんでね、僕らと同じものを食べてもらうよ」そう言いながらミスターJはのんびり朝食を作り始めた。「昨日の大物の感想は?ミスター?」「あ、ぁ、KENですケンと呼んで下さい」「ケン?スペルは?」「K・E・N」「KENか、いいニックネームだけど、僕はもっといい名前を思いついたよ」「なんて名前?」「ケン!」「なにそれ?同じ?」「いやいや、スペルが違うんだよ、C・A・Nでケンだ!」「キャン?なんでキャン?」「あはは、CANADAのケン!、大物を釣ったCanだ!」「カナダの息子って意味かな?そりゃ光栄、ありがたく頂きます」
朝食を食べながら、ミスターJの話は続く。
「僕らはニュージーランドにもフィッシングロッジを持っていてね、ここらに雪が降る頃向こうに行ってまた料理を作るんだよ、そして向こうが冬になるとカリブに寄ってバカンスを楽しみ、此処にまた戻ってくる。もうそんな生活を10年やってる」「世界は広くて面白いぜ!僕はドイツで料理の修業をした、日本?ああ日本にも行ったよ、フジヤマ、ゲイシャ、スシ!東京は物価の高いところ、リッチマンの住む場所だよ、僕らには合わない」「ところで君らは、またカナダに来るつもりかい?また来るなら今度はクィーンシャーロットに行ってごらん、あそこは釣り天国だよ、僕は仕事の合い間に岸からルアーを投げてさ、20分で7,8ポンドのコーホーを6匹釣りあげたことがある、あそこはいい!10歩歩いて、ポイと投げて、グイグイだよ!」楽しい話は続くがトム君が向かえに来た。

今日はトム君のガイド、広い牧場を横切る。牧場主に断りを入れた後、デコボコの牧草地をスタックしないよう、のらりくらりと走る。何十頭もの牛が重たそうに頭をもたげてこちらを一瞥しまた目線を牧草に戻す。今日は全てが休日モードだ。
「昨日の朝はずいぶん上流に行ってね、橋の下で練習をしたんだよ」
「あ、白い石の特訓をしたんだね、ゴードさんは厳しいから。僕も橋の下の特訓は何度か受けたよ」
・・・な、なんと、プロのガイドを養成する為の練習を僕らは受けていたのだ!
・・・改めてゴードさんの機転と熱意に感謝するばかりだ。
瀬音の聞こえる場所に着くと、3人でボートを持ち上げ、30mほどイバラのある潅木帯を抜ける。
初日からずっと、僕と藤野さんはポイントごとに先行を交代していたが、今日はなんとしても藤野さんにスティールヘッドを釣ってもらわなければいけない。新しいリーダーを結びながら「今日は藤野さんが釣るまで、ずっと僕は後をついて行くからね」と言った。「うわー それはプレシャーだなぁ・・・」「いやいや、絶対先行有利やって、僕は昨日の一発でもう十分、なんとかあの感動を藤野さんにも味わってほしいよ」「うはー余裕だね、なんとかケンさんの目の色を変えたいもんだ、頑張らなくっちゃな」

今日は休日のせいか釣り人が多い。トム君は「どうだい?」と全ての人に声をかけて行くが、良い返事は返って来ない・・・橋の近いポイントでは、「俺はここで4日ねばってるがノーフィッシュだよ!」とニコニコしながら答える人も居た。

しばらく人の多い区間をやり過ごし、人の入ってなさそうなポイントを幾つか釣るがノーバイト。
昼近く、大きな淵で上陸する。ビーバーがパーン!と水面を一つ打って潜った。ビーバーの平べったい尾っぽは水面を叩くと恐ろしく大きな音が出る、熊避けの爆竹を一発鳴らした程の音が静かな森に響くのだ。藤野さんとトム君は淵尻の良さそうなポイントに向かい、僕は淵の真ん中でドライフライを試した。
こんな静かなトロ場で神経質なサカナが出てくる訳が無いよな、先ほどビーバー君が大きな音を立てたし・・・そう思いながら3回ほど流し、4回目のキャストを終えた。着水したドライフライがゆっくり流れて行く様を眺めていると、ガバッ!フライの1m奥で婚姻色に染まったステイールヘッドがイルカの様にもっこりとライズした・・・わぉ!昨日釣り上げたスティールヘッドより明らかに大型!・・・しかし毛鉤に反応した出方では無かったのも明らか・・・もう一回キャストしてみるが、やはり出ない。フリーで泳ぐ姿はキスピオックに来て初めて見た・・・凄い・・・綺麗・・・昨日までの川と雰囲気が違うぞ・・・。また出てくるかもしれない、早速藤野さんを呼んで来る。
藤野さんが粘っているので、この場所で焚き火を起こし昼食にした。

昼食が終わった頃から雲行きが怪しくなってきた。
藤野さんに頼むと言われ、お昼からの第一ポイントは僕が先行することになった。
ゴードさんに特訓を受けた瀬によく似た流速、瀬頭付近にはテーブル大の沈み石が見える。「凄く良さそうなポイントじゃん、先行を変わったとたん釣れても知らないよ」「いいから、いいから、ケンさんの目の色が変わんないとどうも調子が出ないんだ」
ついに雨が降り出した、カッパを着込みグリーンバットスカンク0番をしっかり結ぶ。かなり上流側にキャストし毛鉤を沈めながらラインを手繰り、沈み石手前からどんどん送り込みを入れる・・・モソッ・・・石に引っ掛けたかな?一呼吸入れて思い切り合わせを入れる。
ドシッ!生き物の手ごたえが来た!
来たー!スティールヘッドはテールウォークしながら下流に逃げる!30mほど下流に張ったラインがフッと緩んだ・・・あれ?外れたかなぁ!?ラインが90度に曲がり走る!今度は僕の数メートル横で1mを越えるジャンプ!凄い!強い!また火傷をしない様右手を川で濡らしながらやりとりを繰り返す。この魚は案外へばるのが早かった。竿の真ん中を持って強引に寄せる。85cm18ポンド、5分もかからないランディングであった。昨日は偶然という印象が強かったが、この一匹は狙い通りの流し方で喰ってきたので気分がいい。
「藤野さん、今日の川は昨日までと何か違う。さっきもスティールヘッドを見たし、今日はチャンスの日かもしれない、やっぱり先行してやってね!」
「う~ん!交代した一投目でヒットだもんなぁ脱帽だよ、俺も釣りてぇー!・・・でも僕が先行するとポイントを潰してる様な気がしてね・・・」
「どんまい どんまい、今日の雰囲気はいい!まだこれから出るって!」
風雨はだんだん強くなるが、”釣れる臭い”はキスピオックに来て以来最高だ。

非常に長い瀬にさしかかった。どこがポイントか掴みどころが無い。
ふいに強い横風が吹き後ろの倒木に毛鉤を引っ掛けてしまった。危ない危ない、こういう風は自分を釣りやすい、針が大きいから自分に引っ掛けたらえらいこっちゃ・・・リーダーを交換しつつ、ホットコーヒーを出してもらい一服する。午後の一発で火の点いた藤野さんはひたすらキャストを繰り返しながらどんどん先行して行く。トム君の母親が持たせてくれた甘い甘いケーキを一口ほおばりコーヒーを飲み干す。下流からの風が強いので、体の左側を通しキャスト。曇天と風で水面がざわつき、沈み石は見えない。流れのわずかなヨレや変化を頼りにターンポイントを設定し送り込む・・・グッ!来た!こいつも強い!幾度もジャンプを繰り返すが川幅が狭いので割りと楽に寄せることができた。3匹目は80cm16ポンドほど。天気とは裏腹に今日は川が微笑んでいるぞ!リリース後、同じポイントに毛鉤を変えてキャスト・・・また来た!これも80cm16ポンド、銀色の魚体はフレッシュランの証拠だ!フレッシュランの群れに当たったのだ!きっとまだ居るぞ!藤野さんを呼んでくるようトム君に言った。トム君は大急ぎで豆粒のようになった藤野さんめがけ走って行く。僕は立ち位置とキャストポイントを見失わない様、その場に座り込んで待つ。雨も風も強い・・・川に濁りが入らなければいいのだが・・・。
ようやく戻って来た藤野さんと交代し、僕は少し高い位置からカメラを構える。
すぐにスティールヘッドがヒット!トム君がヒャッホー!と叫ぶ。
これもジャンプを繰り返し、藤野さんは初体験の世界で吠えまくる!

やった!やった!これで僕らの企画は大成功だ!藤野さんと16ポンドの写真を撮りまくり、リリースが終わるともう一度僕はキャストした。また来た!これも80cm16ポンド。入れ替わって藤野さんもキャストするが、反応は無くなった。
どんどん雨が強くなって来た。僕らはもう十分満足しトム君も笑顔だ、少し早いが帰ろう。

強い雨の中、納竿ポイントに到着。川から上がるとトム君の真っ赤なムスタングが止まっていた。これじゃ3人は乗れるけどボートは乗せて帰れない。本当はピックアップトラックが置かれている予定だったが、僕らが早く帰ってきたのでまだ車の入れ替えが終わっていなかったようだ。トム君が近くの民家に行き車の手配の電話を入れて戻ってきた。トム君は向かえのトラックが来るまで此処で待っているので、あなた達はこのムスタングで先に帰って下さい、と言う。えっ!?僕は国際ライセンスは持ってないし、藤野さんはペーパードライバー・・・トム君、大丈夫、大丈夫、ここからロッジまで真っ直ぐ走るだけ迷う事は無い、ポリスマン?こんな田舎に居る訳ないじゃん、これは緊急事態だからね・・・風邪を引いてはいけないので早く乗って!

しょうがないな トム君の愛車を汚す訳にもいかないので、ズリズリとウェーダーを膝まで降ろしムスタングに乗り込む。ん じゃ行きますか!?エンジンをかける、ドッ、ドッ、ドッ!
アクセルを踏み込むとダートで持て余した後輪がたちまちパワースライドを始める、ワッ!すんごい馬力・・・右だよな!?ミギガワツウコウ・・・ドッ、ドッ、ドッ!大雨の中、我々の凱旋パレードである!観衆は誰も居ないが、僕らは最高の気分!ムスタングのケツは振り振り!雨は降り降り!でも、気分は最高!

今日は5つだぜ!昨日は川全体で1つだったのに、今日は僕らで5つだぜ!




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